第57条「決着」感想(ジャビン10号収録)追々記:ロージーの「自覚」は、何によって引き出されたのか
以下は第54条「戦う気持ち」から第57条「決着」までのネタバレを含んでいます。
そして、すごく長ったらしいですorz
エビスの「煉注入」による協力のもと、ロージーが「直式魔縛りの術」を成功させた第56条。エビスの過去回想とロージーの心の動きの描写が話題になった回でした。
ただ、ちょっと話題になりすぎていたためか、所々の感想で「草野はエビスに指摘されて、『ムヒョに認められるために戦っていたこと』にようやく気づいた」という、若干ロージーに批判的*1な意見を見かけます。
たしかにロージーが「同じ魔法律家として 一緒に戦う覚悟なんだ…」ということに気づいたのは、エビスの助言も大きいと思います。
しかし、それだけでしょうか?エビスの助言のほかに、ロージーの「覚悟」に影響した要因はないのでしょうか?
今回は「エビスの助言から、ロージーの覚悟へと至るまでのプロセス」を筋道立てることよって、どのような影響がロージーを「覚悟」へと導いていったのかを考察しようと思います。
助言を「受け入れる」こと、助言から「考える」こと
第56条のロージーの描写を追っていくと、エビスから助言を受けたあとのロージーの心象が、以下のように展開しているように考えられます。
- エビスの助言から「思い出す」
- (p.12-13)「なんでなにも 教えてくれないのさ!!」「ムヒョは僕をきっと…信じてくれてないんだ…!!」など、自らの言動を思い返す段階。
- エビスの助言を「受け入れる」
- (p.14-15)「今までの僕は知らない間に ただムヒョに誉めてもらいたくて戦ってたんだ」と、自分の今までの態度を省みる段階
- エビスの助言から「考える」
- (p.15-17)「僕に本当に必要なのは ムヒョに認められることじゃなくて…」と、課題や目標を自らに課す段階
他人の助言から「思い出す」ことや、他人の助言を「受け入れる」ことは比較的簡単です。今回のシーンのエビスの助言も、ロージーの悩みを充分に 盗聴して 傾聴してから向けられたものでした。多少遠まわし的な助言ですが、ロージーにとって「思い出す」こと「受け入れる」ことはそんなに難しいことではなかったことでしょう。
しかし、他人の助言から「考える」ということは、そんな簡単にできることではないと思います。「考える」ということは、自分の「これまで」を反省するのと同時に、自分の「これから」に必要なものを見つけなくてはなりません。自分の欠点を見つけるのは比較的簡単でも、その欠点を克服することは大変難しいはずです。
話が長くなりました。簡潔に言えば、
- ムヒョに誉めてもらいたくて戦ってた
という「自分のこれまで」に気づく事は比較的簡単でも、
- 僕に本当に必要なのは 一緒に戦う覚悟なんだ
と「自分のこれから」に必要なものを考え付く事は難しい、ということです。
こう考えてみると、ロージーの「自覚」を促した要因は「エビスの助言」だけではなく、その他にもあるのではないか、と言えそうです。
では、その「他の要因」とは何なのでしょうか……と言いたいところですが。
ちょっと一休みして、視点をエビスの方に変えてみることにします。次は、なかなか衝撃的ながら、多くの人が突っ込まずにスルーをした大問題、「なぜ、エビスはロージーに煉を託したのか」を考えてみることにしましょう。
ロージーはエビスから「影響を受けた」だけなのか
エビスがロージーに煉注入をしたときの状況は、極めて絶望的でした。どれくらい絶望的だったかというと
- ブイヨセンは絶望するほどの*2強敵であり
- 今井裁判官の「六法破魔手形の陣」も効果がなく*3
- 唯一の攻略法も、効果が不確かな「直式魔縛りの術」しかなく*4
- その「直式魔縛りの術」も、霧状化によって成功率が更に低下し*5
- マリルやエビス自身も霊性の毒に侵されている上に*6
- 戦闘要員*7の煉はほとんど尽きかけていた*8
これくらい絶望的な状況でした。
しかしこの状況下で、エビスが「煉注入」の対象として選んだのはロージーでした。なぜ今井裁判官ではなかったのでしょうか?
考えられる理由のひとつは、「煉の残量を考えた上での決断だった」です。今井裁判官自身が「直書きには煉が足りん*9」と言っていることからも、「煉の残量」説がもっともらしい理由のように思えます。
しかし今井裁判官は、後にオニコマイヌ×2を退治しています*10。このことから、先の時点でも結構な量の煉が残っていたと考えられます。したがって、エビスの煉注入の対象は今井裁判官であっても問題はなかったはずです。
また「煉の残量を考えた上での決断だった」のであれば、エビスの態度はもっと消極的であってもいい筈です。
しかし、エビスの行動を顧みれば
- 立っていられなくなるほどの量の、煉を渡した
- 自分の過去も含め、
女王五嶺様への愛想いを語った - 「直式」成功時、「へへ!!まじでやりやがった…!!」と喜んだ
などなどと、わずかながらも期待をかけているような態度が伺えます*11。
つまり、エビス自身は「ロージーに期待をかけて」煉注入を施したのだ、と考えられます。
では、エビスがロージーに期待をかけた「理由」とは何だったのでしょうか。私は2つの「理由」を考えています。
まず1つ目は、「ロージーの戦闘能力への期待」です。パーティの中で、ロージーはブイヨセンの攻撃に対し一番早く反応していました*12。描写されていないシーンの間にも、ロージーの反応が飛び出ていたと推定すれば、辻褄が合います。しかし、私は上記の「理由」を支持しません。自分で言っておきながらなんですけれど(汗)。
もし上記が「理由」だとすれば、エビスがロージーに煉注入を施す際に語りかける言葉は、自ずと「攻略」に関するものが中心となるはずです。しかし、実際にエビスが語りかけたのは「 女王 五嶺様への 愛 想い」でした。
このことから、「エビスの期待」は「ロージーの戦闘能力への期待」ではない、と考えられます。
では、私の考える、2つ目の「理由」を提示します……と言いたいところなのですが。2つ目の「理由」は、ちょっとややこしいため、順を追って説明します。
まずはじめに、vsブヨイセンの前半シーンにおける、エビスの心の動きを追っていくことにしましょう。
- ブヨイセン登場:「オレらはここで終わりだ…!!」*13
- 双子の「直式」提案:「どーせ効果も不確かなんだろ?危なすぎねェか…!?」*14
このように、vsブヨイセンの前半シーンにおけるエビスの心は「逃げ」や「あきらめ」といった、マイナスの方向へと動いています。ロージーに煉注入を施したときに見せた「余裕」や「強気」も、ここでは欠片すら見受けられません。
つまり、vsブヨイセンの前半シーンと後半シーンとでは、エビスの心境が正反対と言っても過言ではないほどに、変化しているということです。
では、エビスの心境を変えた「要因」は何でしょうか。考えられるものは以下の3つです。
- 状況が有利になった
- 「直式」の有効性が見えてきた
- 状況は絶望的でも、前向きに考えるようになった
まず(1)と(2)は有りえません。毒による被害の増加、戦闘要員の煉残量の急激な減少、霧状化による「直式」の度重なる失敗……などなど*15により、状況は不利に、「直式」の成功確率はより見えない状況となっていました。
消去法で残ったのは(3)です。つまりエビスは、状況が絶望的であったのにも拘らず、気持ちが前向きになったのだ……と考えることができます。
では更に、状況が絶望的であったのにも拘らず、エビスの気持ちを前向きに変えた「要因」を探ってみることにします。
とは言っても、探る以前に、本編に残っているのは登場人物のセリフだけです。ということで、エビスの気持ちを前向きに変えた「要因」は、今井裁判官またはロージーの言葉、もしくはその両者である、ということになります。
2人のセリフを見ていきましょう。時系列順に、まずは今井裁判官から。
陣が効かない時点で 我々の戦う方法はそれしかないな
リスクは高いが やる価値はある――*16
続いて、ロージーのセリフは以下の通りです。
今井さん エビスさん 直書き やりましょう
僕たちならきっと うまくいきます…!!*17
上記の2人のセリフを比較すると、あくまで冷静な判断の今井裁判官と、なぜか前向きなロージーとの違いがはっきりと見えてきます。
ロージーがどれくらい前向きかというと、ブイヨセンの念動力から逃げている最中にも拘らず、笑顔で上記のセリフをのたまうくらい前向きです(今井裁判官のセリフはネガティブではないと思いますが、さすがにあの状況にて笑顔を見せるロージー以上にポジティブではないと思います。)。
エビスが最終的に煉注入の対象をロージーにしたことから考えると、エビスの気持ちを前向きに変えたのは、ロージーの前向きな気持ちや行動ではないか、と考えることができます。これは煉注入施行の際に「ダメで元々 受け取れ*18」と言っていることからも窺がえます。エビスはロージーの前向きな気持ちに懸けてみたのではないか、と考えることができると思います。
大変長い文になってしまいましたが、結局何が言いたかったかと言うと、「ロージーがエビスの言葉に影響を受けたように、エビスもロージーから影響を受けたのではないか」ということです。
そしてさらに、ロージーの前向きな考えも、双子の博識や今井裁判官の冷静な判断、そして何よりも彼らへの「信頼」があったからこその「前向き」であったのではないかと思います。
エビスの言葉を借りれば、5人全員がそれぞれの「パートナー」だった、ということが言えそうです。
ロージーの「自覚」を促した、「エビスの助言」以外の「要因」とは何か
さて、話が大分逸れてしまいました。本題に戻ることにしましょう。
ただ、色々と違う話をしてしまったので、再確認してみます。
僕に本当に必要なのは ムヒョに認められることじゃなくて…
同じ魔法律家として 一緒に戦う覚悟なんだ…!!*19
ロージーは第56条にて、ムヒョのパートナーとして必要なものに気づきました。牧波さんの主張は、この気づきには「エビスの助言」以外の「要因」も関わっているのではないか、というものです。
vsブイヨセンを振り返ってみてください。
ロージーがブイヨセンと戦った理由は、ムヒョに褒めてもらうためだったのでしょうか?答はNoだと思います。なぜならブイヨセンを倒しても、その場にいないムヒョからは、ロージーは褒め言葉を受け取ることはできないからです。
ロージーは今井裁判官・エビス・双子と一緒に、ブイヨセンと戦っていました。では、ロージーは彼らに褒めてもらうために戦っていたのでしょうか?答はNoだと思います。ロージーは「同じ魔法律家として」仲間を信頼し、「ムヒョ ボク やれるだけ やってみるよ…!*20」と自らも前向きに「魔法律家として 一緒に戦う覚悟」をしていました。
上記のように顧みると、エビスの助言を受ける前に、すでにロージーは「覚悟」の下地とも言える「戦う気持ち」を持っていたと考えられます。そして、その「戦う気持ち」があったからこそ、ロージーは「エビスの助言」から多くの事に気づき・考えることが出来たのではないでしょうか。
と、いうわけで。長々しい文章でしたが、御読了ありがとうございましたm(_ _)m。たまにはロージーの成長も受け入れてあげてください(笑)
あのね ムヒョ
あの日の夜 僕が
何度 打ちのめされても立ち上がれたのは
ムヒョのとなりに もう一度帰りたかったから
*1:あくまで主観ですが、気分を害された方がいらっしゃいましたらご指摘ください
*2:第54条「戦う気持ち」p.1参照
*3:第54条p.5参照
*4:第54条p.15参照
*5:第55条「翼」p.15-16参照
*6:第55条p.17-18参照
*7:双子はペンが使用できる1級書記官仮免〜裁判官ではない?
*8:第55条p.19参照
*9:第55条p.19参照
*10:第57条「決着」p.15参照
*11:多少ひねくれているように見えるかもしれませんが、それはエビスがツンデレであるからだ、ということにしておいてください
*12:第54条p.5,8参照
*13:第54条p.1参照
*14:第54条p.15参照
*15:第55条p.15-18参照
*16:第54条p.15参照
*17:第54条p.19参照
*18:第56条p.1参照
*19:第56条p.17参照
*20:第54条p.19参照